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素材散策5周年記念【欧州散策 第十二話】最終日の空で

素材散策も2006年12月をもっておかげさまで5周年を迎えることができました。そこで5周年記念として10月にツアーでドイツ、スイス、フランスを散策したときの様子や感じたことを何回かに分けて紹介していきたいと思います。
ドイツのライン川を下り、ロマンチック街道の街を巡り、スイスのユングフラウヨッホで氷河を眺め、フランスのパリの夜景とモンサンミッシェルを見てまわった後のお話です。

ヨーロッパ旅行最終日の朝は、カーテンからうすく漏れるやさしい光で目が覚めた。カーテンを開けると、目の前の建物に邪魔されながらも青空の下にパリが広がっていた。気持ちの良い朝。しかし、今日帰国すると思うと少し薄曇りのような気分にもさせられる。たった一週間、なのにまるで一年以上旅したような充実感がこの旅にはあった。
ミルクにパン、ハム、スクランブルエッグ、フルーツポンチ。朝食を済ますとすぐ近くのスーパーに向かった。バゲージダウンまであと30分、それまでにスーツケースを部屋の前に出さなければならなかったからだ。少し慌てながら土産になりそうなものを探していると、嬉しいことにモンサンミッシェルで買い忘れたクッキーもパッケージにイラスト入りで安く売られていた。ほかにチョコレートなどいくらか買った後食品売り場から離れ、ぐるりと店内を一周してからレジに向かった。
スーパーを出ると、小さな子を連れた何組もの親子とすれ違った。近くに幼稚園でもあるのだろうか。肩車をしたり、手をつないだり、家族の温もりが感じられるその光景は見ているこちらも幸せな気分にさせられた。それは観光名所を見てまわるのと同じくらいパリを身近に感じさせてくれる嬉しい出来事だった。
バゲージダウンにも間に合い、その後半日のフリータイムとなった。行く場所をこれといって決めていなかったので、ガイドブックに小さく掲載されていたリュー・デュ・バック駅近くの雑貨屋を訪ねることにした。
途中、地下鉄の中で、ダヴィンチの描いた「モナリザ」を若く美しくしたような女性が近くに乗車してきて思わず「ドキッ」とさせられたりもした。
雑貨屋ではとくに何も買うつもりはなかったが、磁石で体にクリップが付くというアイデアが気に入ったので柄の違う鳥の形をした文房具?を二つ購入することにした。ただ、帰国してから「MADE IN CHINA」の文字に気がついた。お隣中国からパリに渡り日本にやってきたなんてまるで“渡り鳥”。そう思いながら“渡り鳥”を見ると、とても世界中を飛び回れそうにないずんぐりむっくりした姿が面白い。机の上の“渡り鳥”は今もパリの思い出を蘇らせてくれている。

店を出て地図を広げると、セーヌ川まで歩いていける距離なので少しパリの街を散策することにした。当たり前だが日が沈んでから輝くパリの街とは雰囲気がまるで違う。店のシャッターも開いたばかりで、魚介類を扱った店では牡蠣やトルコ産のザリガニなどが山盛りに並び、果物屋の窓にはぶどうやトマト、スイカにもメロンにも見えるような変わった果物が飾られ、奥にジャムの瓶のようなものが積み上げられていた。

オルセー美術館前で軽く象に挨拶してからセーヌ川にたどり着くと、川幅が広く、街並と街路樹、そして景観を邪魔しない橋がゆったりとした雰囲気を醸し出していた。逆光気味が幻想的に写るパリの街。しばらく足を止めて観光客を乗せた遊覧船が過ぎて行くのを眺めながら感じる風が心地よかった。
ルーブル美術館前のチュイルリー庭園からは、噴水、コンコルド広場、シャンゼリゼ通りを抜けて凱旋門までが一直線に並んでいた。後で知ったことだが、この通りはエジプトのルクソール神殿からカルナック神殿あたりを真似たものらしい。コンコルド広場のオベリスクなんかは実際にルクソール神殿から運ばれてきたもので実に3000年以上前の作品。端にある階段から望遠レンズを使うと、観光客や交通渋滞などパリをギュッと凝縮した面白い画が撮れた。何回かシャッターを押した後、庭園をぐるりと見回すと木々はまばらに紅葉していたが、それは秋らしいというほどまとまってはいなかった。そういえばと、パリは日本と違い夏から一気に冬に変わってしまうと現地ガイドが言っていたのを思い出した。
その後、ピラミッド広場のジャンヌダルク黄金の騎馬像、オペラ座、いくつかの日本人デザイナーのショップ前などを通り過ぎ、見慣れたコンコルド広場近くの駅から地下鉄でホテルに戻った。

観光という意味ではそれが最後だったが、のんびりパリを散策していたら急に日本に帰って仕事がしたくなってきた。机の上にどっさり積まれた仕事を想像しながらも、また海外に触れられるように頑張ろうと。見る物全てが新鮮という物心ついてから今まで経験したことのないような一週間に、いつの間にか気持ちもリフレッシュされたようだった。マンネリ化しがちな日常生活の中で知らず知らずに蓄積されていたモヤモヤ、そんなものが自分の中にもあったんだなぁと気付かされたような旅だった。海外もまたいとおかし。
帰りはイタリア・ミラノの空港でトランジットしてから日本へ戻るということだった。ミラノへ向かう機内で、親しくなったツアーの方から高級なマロングラッセを一ついただいた。「とても有名なのよ」という綺麗な金紙で包まれた一粒の大きな栗の実はとても上品な味で美味しかった。フランスの食文化のこだわりは、どこか日本のそれと似ていて、食べるというよりも目と舌で味わう感じに近い。味は違うが、このマロングラッセもまるで高級な和菓子一つをいただいているようだった。口の中にわずかに残る甘い余韻に、美味しい日本茶があればなぁと思わずにいられなかった。
しばらくすると前席の外国人ファミリーの3歳くらいの男の子が、目をくりくりさせながらこちらに「ピーチュ、ピーチュ」とVサインをしたり、そのまま人差し指と中指で鼻を挟んだりして座席の間から顔を出してきた。こちらもVサインで小さく「ピース、ピース」と返すと、嬉しそうにしてまた返してきた。何度かやり取りをした後「周りにあまり迷惑をかけたらいけませんよ」とご両親に言われたらしく、それからはおとなしくしていたようだった。

窓の外、地表は雲海に覆われ、そこから突き出た山々は夕日でにわかに赤く染まりはじめていた。目の前の美しい景色とは裏腹に、この真下で暮らす人は傘をさしながら今日一日過ごしていたのだろうか? そんなことをぼんやりと考えていた。
視線を窓から機内に戻すと、壁とシートの隙間からさっきの男の子が、じっと窓の外を眺めている姿が見えた。先ほどとは違いどこか大人びた表情に見えた。彼はこの景色を見て何を思うのだろう? そんな疑問はこれっぽっちも分からなかったが、ただ美しい景色全て吸い込んでしまったような澄んだ大きな瞳が印象的だった。
少しして隣の方でクスクスと笑い声に気付いたので目をやると、反対の窓際に座っていた凱旋門の屋上で一緒に夜景を眺めた新婚さんご夫婦が小声で「ずっと見てましたよっ」と言いながら笑顔でこちらに軽く手を振ってくれた。「ピースのやりとりなんて、恥ずかしい姿を見られたなぁ」と照れ笑いしながらも、その二人の素敵な笑顔がまたやけに嬉しかったのを昨日のように思い出す…
おしまい
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